« 思惑ハズレ… | Main | 廃橋の謎解き散策 »

October 26, 2008

“スカイ・クロラ”の謎④

※.小説“スカイ・クロラ・シリーズ”及び劇場用アニメ“スカイ・クロラ”のネタバレを含みます。

 前回までいろいろと感想、解釈なんかをダラダラ続けてきて、とりあえず小説シリーズで“クレィドゥ・ザ・スカイ”までの流れはこんなんだろう、ってまとめたけれど、そうすっと刊行第1作目である“スカイ・クロラ”までが謎めいた部分を醸し出し始めるゾ、というところまでは述べたんだっけ。

 何度もしつこく言いますがネタバレ全開なので、シリーズを読もうとか考えている人は、小説を読み終えるまでこのブログ記事「“スカイ・クロラ”の謎」系を見ないほうが良いでしょう。

●函南優一≒草薙水素? … 劇場用では函南優一は栗田仁郎の生まれ変わりという設定での物語だったけど、劇場用のシナリオが完成して以降、小説シリーズは続編が刊行された都合もあって、劇場用と小説の原作シリーズは全く異なる解釈の物語。で、小説を読み進めていって辿り着いた「函南≒草薙」説。何がどのように近似値なのか?

 前回の最後に“グレィドゥ・ザ・スカイ”エピローグで新聞記者の杣中が函南に話した内容「半年前のアジトで散香で飛んだ草薙水素」「指揮官復帰後の水素は別人のよう」「むしろ函南が水素に似ている」という話。長篇刊行順では“スカイ・クロラ”が最初で、“グレィドゥ~」が最後。そしてこの2作は時系列的には“クレィドゥ~”→“~クロラ”へとつながることを考えれば、最後に大きな謎掛けが来たことになる。“~クロラ”の水素は影武者か?函南こそ水素だったのか?などなど思わされ、とても楽しめる。そうなると、最初の刊行で既読だった“~クロラ”や、全ての作品における水素と函南の接点を確認したくなったりする。

 函南が時系列的に初めて登場するのは“ダウン・ツ・ヘヴン”。水素が頸部を負傷~入院していた先で、頭部にグルグル包帯巻きで存在し、パイロットだったらしいことくらいしか覚えていない。周囲から「カンナミ」と呼ばれているから自分は函南なんだと認識している状態。病院ではまず、水素の手をマジマジと見て「綺麗な手だ」と言い、水素と見つめ合う。そこで水素は函南の瞳の中に雲ひとつ無い空の中に飛ぶ戦闘機(点)の軌跡を見、それをお互いがお互いの瞳の中に見ていると表現している。またそれを「背筋のぞっとするような気持ちの悪さ、それとも気持ちの良さ」「僕がかつて落としたものだろうか」とも思っている。

 後に、極秘停戦区域の基地で水素は講師を務めることになり、そこで精悍な顔つきになった函南と再会する。講和後、函南はいろいろと水素と話していくうちに、身も心も距離を縮めていくのだが、それを水素は「僕は彼に触れるわけにはいかない」、「触れるだけで壊れるものが…」「消えるものが…」と不安を抱く過程がある。

 函南はほとんど以前の記憶を喪失した状態であるから、失うものは何も無く恐れず水素との距離を縮められるが、逆に水素はある程度の記憶の持ち主であるから、以心伝心してしまうような函南の存在に接近したい本能と距離を置くべき直感が葛藤しているような素振りが見られる。この以心伝心チックなものの正体とは?というのが肝なんだろうな、と思わされてしまう部分。

 その後の水素の夢に函南は登場するが、夢の中での水素は幼少期の体格をしており、他人はもちろん犬猫動物も消えてしまった「水素だけの世界」が展開されている。デパートらしき屋上にて函南に遭遇するのだが、そこで何故函南が存在するのか水素は尋ねる。函南は「あなた以外のものは、たしかに消えた」と言い、「どうして気づかない?」「気づかない振りをしているだけだ。あなたは理由をちゃんと知っている」と水素を問いただす。そして水素は抱きしめられ、函南に「僕は、あなた以外じゃない」と言われる一瞬前に水素は気づき、全身に悪寒が走っているのである。水素が幼少期のこの頃に、水素が忘れている何かが在るのかと思わされる。

 なお、この「水素≒函南」らしき構図は“スカイ・クロラ”にもある。函南が見た夢の中に登場した水素が「二人で、進化しよう」と言い、黄色いテントの中に入っていくものだ。テントの中で函南は「僕が何度も見たもの」を見、激しい動悸の中で目覚めている。また、函南が心の中に繰り返される賛美歌から妹の葬式を思い出し、妹の顔を覚えていないのに何故か草薙瑞季の顔(水素の幼い頃の顔か?)を思い浮かばせている。つまり、函南は水素の幼少期を知る存在、水素は幼少期に函南の存在と接点がある、ということが想像される。

 さらに、この構図は“スカイ・イクリプス”へと続いている。「ドール・グローリィ」では、函南のところへ見舞いに訪れる瑞季や函南と共に暮らす?甲斐の存在があり、“~クロラ”の函南は実は水素?的なエピソードがある。瑞季は函南に「小さい頃から知っている。ずっと、知っている香り」を感じているが、“~クロラ”の十歳前後の頃のことを「小さい頃~」と言っているのか、それ以前なのかも釈然とはしない。ただ、函南は甲斐が居るからそこで暮らしているようであり、瑞季がお土産として持参した手編みのカーディガンを甲斐が「斬新な発想」と言っていることから、函南にカーディガンをプレゼントすることで何かの変化を期待している感がある。瑞季と甲斐が函南に対しそこまでする理由とは何なのか?「ドール~」の函南は“ナ・バ・テア”冒頭から登場する草薙水素であって、どこかで自身を函南だと思い込んでしまった経緯があるようにも思えてしまう。

 同じく“~イクリプス”の、「スカイ・アッシュ」の『彼女』(“グレィドゥ・ザ・スカイ”の『僕』=水素)は“クレィドゥ~”で相良亜緒衣を撃つところ、“~イクリプス”「ドール~」で瑞季が回想している水素が栗田を撃つところ、そして“~クロラ”で自分が撃たれた姿(何故か函南視点)を思い出したりしている。

 そう言えば、函南が確実に男だという描写は無い。小説の水素はボーイッシュであるから、男装、いや「うる星やつら」の竜之介くらい見間違えることがあってもおかしくない。元より本人が自分を男と思い込んでしまっていたならば。そうなると…かなり、水素と函南が入り乱れてしまうのだ。だが、それぞれは確実に別体として存在している。

 そこで、キルドレである水素や函南の記憶力についてだが、基本的に夢と現実の区別がつかないという「信憑性の無さ」から判断材料から除外し、普通の人間が関係する部分だけを考慮すると、「ドール~」の瑞季の話と「~アッシュ」のフーコの話くらいしか頼りにならない。そして、新聞記者の杣中や整備士笹倉の話くらいなのである。だが、これも一部は素直に受け取ると複雑になりかねないから…。

 まず、最初の確信的謎掛けにもなった杣中が函南に話した内容は、函南に対する詮索だろうという意味で、水素に似ているのかもしれないが函南は函南だと。指揮官水素は別人のようだけれども、相良や栗田を殺したことで自らの人生観を変えてしまった水素本人なのだと。杣中はあまりにも自身の熱意が強過ぎて、客観性を失ってしまった、函南に水素の姿を重ね過ぎたと考えるべきだろう。

 こうなると、「ドール~」の函南って?となる。これは、胸を撃たれ重体となった水素が長年の治療で回復する途中のエピソードであろう。瑞季が病室に入る前に看護師から「最近、風邪をひきましたか?」とだけ訊ねられるが、これは感染症対策からである。“~クロラ”で最終的に精神的墜落で果てた函南が入院していたのならば必要ないことだ。もしかすると水素は心臓移植を受けて免疫力が落ちているのかもしれない。かなりの記憶の混濁の中で、水素は自分を函南と思い込んでいるのは、このエピソードだけだと思われる。瑞季が函南を失いたくない理由、甲斐が共に住んでいる理由、それぞれが函南を何かしら回復させようと思っている理由。それは全て水素を想う気持ちからなのだ、とすれば合点。

 で、「~アッシュ」の『彼女』が函南視点で自分が撃たれた姿を思い出すのは何故か?となる。これはキルドレたる記憶の曖昧さ、聞いた話の再合成から実体験のように記憶されてしまっている部分なのかもしれない。この『彼女』は他に相良と栗田を撃つ場面を思い出しているが、もしこの『彼女』が“~クロラ”の函南だとすると、“グレィドゥ~”のストーリーにあること、瑞季と共に栗田を撃ちに行ったことなど合点いかない部分が多くなり、結果として「“~クロラ”の函南は元々の水素」説が出、次いで「“~クロラ”の水素は影武者」説になり、仮定を膨らまし過ぎてシリーズ全体の構成がぐちゃぐちゃで無意味になってしまうのである。

 まあ、仮定を膨らまして楽しむこともできる作品、読み手にいろいろな受け止められ方をされるストーリー、ということで、とにかくトリッキーな内容だったということでしょう。普段から小説など読まない自分としての感想は、「読んでいる途中はとても面白いのに微妙にスッキリ終われない」というもので、著者の策略に見事に引っ掛かっているというところだろうか。きっと、小説の中のキルドレたちが、その自分たちの曖昧な記憶の中で生きるという状態、微妙にスッキリしない状態、それになった、ということなんだな。著者の言う「映像化は困難」という理由も、誰が誰なのか判らなくする意図から来るものだろう。

 まだまだ謎解きを語れそうな部分もあるけれど、あとは細かいからヤメちゃいます。とりあえず小説“スカイ・クロラ・シリーズ”に関する話題は終~了~。(疲れた)

|

« 思惑ハズレ… | Main | 廃橋の謎解き散策 »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/155453/42830142

Listed below are links to weblogs that reference “スカイ・クロラ”の謎④:

« 思惑ハズレ… | Main | 廃橋の謎解き散策 »