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October 12, 2008

“スカイ・クロラ”の謎

※.小説“スカイ・クロラ・シリーズ”及び劇場用アニメ“スカイ・クロラ”のネタバレを含みます。

 著者・森博嗣の小説であり、監督・押井守の劇場用アニメでもある“The Sky Crawlers”には、その世界観やストーリーに多くの謎が存在する。「これって、どうなってるの?」と思うことが随所に出てくる。今では劇場用アニメの公開後ということもあり、多くの書籍雑誌などで解説がなされていることも多い。

 シリーズ小説を一通り読み終わったところで、それらの謎が大体の形として見えてきた。真相というところまでは解明されないことは仕方ないが、私なりに解釈をまとめてみた。まずは大きな部分からいってみようか。

●『戦争の背景』…この点は多くの書籍でも語られている。とにかく世界平和が実現している。国家間の争いなんかは特別には無い世界。しかし、人類は自らの平和を実感するために戦争を必要としている、という世界だ。そこで、戦争請負企業同士が戦争をしているという。

 数々の戦闘で繰り返される破壊、多くの企業軍人の死、凄惨を極めんとする報道が世界に配信されている。一般人の平和ボケ防止効果を狙ったものであろう。平和の価値を見失うことで新たな紛争へと安易に突入することも考えられる。身近に「関わりたくない戦争」が存在することで、世界は、世論は、安易に武力行使には至り難くなる。そのために実行されている戦争と考えて妥当であろう。小説“ダウン・ツ・ヘヴン”では、国家的デモンストレーションとして、都市上空(というかビルよりも低い位置)で戦闘機同士の模擬空中戦(一般人にとってはリアルな空中戦)が行なわれている。

 この戦争は、どちらか一方に軍配が上がり終結してはならない戦争とされ、これに伴い、軍事兵器にも関わる技術(特に物語中ではジェットエンジンの技術)の発展はあまり見られない世界となっている。革新的技術の確立は一方が優勢へと至ることになり、戦争が終わってしまうのである。

 他にも、経済効果などが考えられる。生産と破壊の繰り返しである戦争は、産業にも影響する。例えば、特に工業生産の停滞が見られる地域において拠点を構えれば、その地域の工業は息を吹き返すであろう。戦争の舞台が転々としているようでもあるので、このような事情も考えられなくはない。勝敗を付けてはいけない戦争であれば、その規模、予算もコントロール可能であろう。経済効果とも密接に関わっていておかしくないのが『ショーとしての戦争』だと思う。

 ただし、この戦争は一般人向けに情報統制されているが、ある程度は国家も含め、また加担した形で、偽装根拠?を付けた形で「普通の戦争」として伝えられている筈だ。そうでなければ、一般人の中から生じる「無意味だ」等の世論が大勢を占めてしまうことだって考えられ、当該国家などは政権維持が困難になることも考えられるからだ。一般人に対しては動機も状況もリアルな戦争であることが必然であり、揺るいではならない部分なのだ。本当の平和を維持するために。

 過去の教訓は活かされない。人類という大きな枠組みでは過去は歴史の1ページに過ぎないのだ。実体験をしてこそその酷さ、何かの尊さなんかが判る。そのためには、平和を維持するためには、常に「戦争」という舞台を、最中ではなくとも身近に置いておく必要が人類にはあっての『ショーとしての戦争』なのだろう。

●『キルドレという存在』…主要な登場人物、特にパイロットは『キルドレ』と呼ばれる人種?であることがほとんどである。戦争請負企業であるロストック社は、パイロットを全面的にキルドレ登用へと移行しつつあり、一般人パイロットは数を激減させている。ロストック社に在籍した頃のティーチャー(キルドレではないパイロット)も同様に「うちの会社は、もう俺みたいな人間を必要としていない。」と草薙水素に漏らしている(“ナ・バ・テア”)。

 では、キルドレとは何なのか。前述のティーチャーの言葉の後に、草薙水素との会話が続く部分にもヒントはある。~「(草薙)飛行機は作れても、パイロットは簡単には作れない。」「そうかな?」ティーチャーは少し笑った。~これはキルドレを用いれば、パイロットは簡単に作れるようになってしまった実情を示していると思われる。

 物語中によく登場する『キルドレの特徴』としては、「歳を取らない(不老)」「永遠に生き続ける」という存在であること、「思春期の姿のまま(おおよそ17~18歳)」であることが判る。“スカイ・クロラ”では三ツ矢碧が函南優一に対して話している内容「遺伝子制御剤の開発の途中で…」キルドレは生まれたとある。そもそもキルドレという名称はその新薬に付けられる筈だったらしい。

 キルドレを誕生させるのは「薬」の存在があり、これは“フラッタ・リンツ・ライフ”で明言されている。その薬が例の「遺伝子制御剤」の開発途上で生じた薬剤であることはほぼ間違いないだろう。この薬を服用または投与されると、身体は17~18歳で成長が止まり、また老化もしなくなるという状態がキルドレなのだ。

 肉体が老化を止め、永遠の生を手に入れたキルドレには、脳にも変化が生じたという。コダワリがなくなり、忘れっぽくなる。これは、絶えず脳が代謝を繰り返すことで記憶することが阻害される(記憶のネットワークが確固とならない?)ことから生じる症状のようだ。“スカイ・イクリプス”中の“スカイ・アッシュ”では、キルドレと普通の人間との記憶状態の違いを「一年草と多年草の違い」と比喩している。また、“クレィドゥ・ザ・スカイ”中に「肉体的な変化がなくなると、同じルーチンに対して、無意識に処理…、身体の動きが合理化…、処理経路が短絡化して、記憶に残らない。」という話もあり、忘れっぽさは脳活動の鈍化傾向にも一因があるようだ。代わりに反射神経なのだろうか、染み付いた経験情報は失われることがほとんどなく、過去を忘れた者であっても飛行機に乗れば、その操縦を身体が覚えている、という状況を作り出している。

 このようなキルドレたちを、戦争請負企業であるロストック社は利用し、戦線に送り込んでいる。ここで冒頭の話「パイロットは簡単に作れるようになってしまった実情」になるのだが、それはどういうことなのか。

 キルドレである草薙水素のことを企業が「兵器」として見ていることは“ダウン・ツ・ヘヴン”における甲斐と草薙水素との会話に直喩的に存在する。兵器として利用するにあたり、重宝すべき点は前述「…同じルーチンに対して、無意識に処理…、身体の動きが合理化…、処理経路が短絡化して…」という経験情報が戦闘に活かせることである。こういった状況判断や機体操作が短絡化していくことが、一瞬の判断が勝敗を分ける空中戦では大きな威力となる。キルドレは経験情報は蓄積される。

 その情報を何らかの形で抽出し、別の媒体へ「反映」させる。別の媒体とは「別のキルドレ」であって、この別キルドレ自体は飛行機に乗ったことがなくても、「反映」を受ければエース級パイロットと化してしまう、という推測だ。だが、小説中では明らかにそうだろう、という場面や、それしか考えられないという状況は、極めて少ない。考えられるのは草薙水素と函南優一の関係くらいであるが、両者の接点、特に後半部分が明らかではない。劇場中では、そのような節がある場面(クセという部分)は函南優一と栗田仁郎との関係にある。

 ジェットエンジンなどの機械技術は進展していないが、バイオテクノロジー系は著しく発展している世界であるから、いろいろと考えられてしまう部分だ。キルドレになってしまう薬は「現在は禁止」と“フラッタ・リンツ・ライフ”で触れられており、また「新しいキルドレが生まれてくることはない。」とも言われている。生命力が強いキルドレ故、一般人なら蘇生不能なレベルまで身体状態が落ち込んだとしても、キルドレ特有の救命措置なんかがあって蘇生するのかもしれない。あるいは短期的にクローンを作り出しているのかもしれない。かもしれない、じゃ、それまでなのだが。

 まあ、基本的に「コレだ!」という答えが提示されているストーリーじゃあないからね。

 では、次回以降は登場人物とストーリーの謎について、いってみようか。

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