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October 05, 2008

空を這いずって…⑥

※.本文は劇場用アニメ“スカイ・クロラ”及び小説“スカイ・クロラ・シリーズ”のネタバレに相当する感想文などを含みます。

 とうとう小説“スカイ・クロラ”の長篇シリーズを読み終えた。一般的に時系列順と言われる順番で読んだ。最後は劇場用アニメでもあった“スカイ・クロラ”(The Sky Crawlers)であり、原作との違いなどを楽しめた。当然ながら、これまで読んできた小説シリーズ“ナ・バ・テア”“ダウン・ツ・ヘヴン”“フラッタ・リンツ・ライフ”“クレィドゥ・ザ・スカイ”の最終章でもある。「繰り返し」の物語と言えども完結編であるので、読み終えたときは一定の達成感を得られた。大体にして、小説5冊なんていう「量」は、これまでの我が人生でのトータル完読数を超えている(笑)のだから、それも当然か。

 シリーズ長篇5作品を読み終えたことで、物語全体に秘められた謎やら何やらを自分なりに解釈したようなものを含め述べるのはまた次。短篇集“スカイ・イクリプス”を読んでからにしても良いだろう。今回は“スカイ・クロラ”を読んだところまでの感想ということで、だらだらと。

 まず本作“スカイ・クロラ”を読むことで感じるのは当然、劇場用アニメとの違いであろう。押井監督によるストーリーの変化や、脚本伊藤ちひろ氏によるセリフの改廃圧縮などとの比較となる部分が目立ってしまう。これはこれで面白い。原作には原作の描写があり、劇場用には劇場用の意図がある。

 大きな違いは話の結末に相当する部分であって、劇場版が公開される前には「ラストが違う」ことが明らかになっていた。あとは劇場用としての時間的制約に合わせたり演出的な面の都合からの小改編くらいが目に付く程度。原作では「繰り返し」の話でもあるのだが、劇場版ストーリーでは続編が作られてもおかしくない結末になっている。「草薙水素」は「何かを変えられるまで」生き続けるのかも知れない、と。(そんな続編が押井目線で作られてほしいとも思う)

 さて、原作だ。原作では「ティーチャー」はそんなに活躍しない。確かに凄腕パイロットとして戦闘するシーンは原作中「大作戦」に出てくるが、劇場版ほど冒頭から、湯田川撃墜、函南撃墜など次々には出てこない。むしろ、「大作戦」くらいしか出てこない。あとは草薙水素が語る話題くらいであって、原作はあくまでも『僕=函南』を中心に回っている。これを草薙中心に据えたのが劇場版ストーリーであり、そのための脚色だと言えるだろう。ちなみに原作では湯田川は一般パイロットに撃墜されているし、函南に至っては撃墜されること無く精神的墜落で果てている。

 劇場版では「ティーチャー」を敵側の全面に演出し、「栗田仁郎」の存在を絡ませることで、「生きるということ」を表現していた。原作では直喩的な生き死にの話題も多く、この点では原作の意図する部分が判りやすい。どちらも「死を見つめる」ことが根本にあると表現されている感じだが、原作では「何度も自殺を失敗した」とか「いつ自分は死ぬと思う?」「いつ死ぬと決めている?」など草薙の言葉があり、死への執着が強く見て取れる。死なないキルドレ故に。草薙故に。

 その草薙は、原作ラストで函南によって銃殺される。これは函南流の優しさがあっての結末だが、劇場版の「今度はあなたが私を殺して」というセリフは無い。草薙が「栗田の生まれ変わりの函南」に対して執着していた感じは受けない。函南は栗田の何かを背負って存在しているが、もしかするとこれは函南も栗田も背負っていた共通のものなのかもしれない。それを周囲が誤解していて「生まれ変わり」と位置付けているに過ぎないのかもしれないな、とも思った。もちろん、本当に(人工的にだが)生まれ変わっていることだって否めないけど。

 「キルドレ」も、戦闘機「散香」も同じ。開発系統がある。バージョンがある。欠陥も見つかれば改良も施される。たまには不良品だって出るだろう。開発系統が同じキルドレ、同じ改良を施されたキルドレが、同じような記憶や技能、あるいは性格などの人間性で共通する部分を有しているのだろう。

 そんな背景ばっかりにアタマが回ってしまうのは、私がそういうものが好きだからだが、作品を読んで、実直な感想は?というと、面白い。没頭癖や思考葛藤癖(感情葛藤ではなくて)がある私には、各作品の主人公が考えたり発する言葉にも共感が持てることも多かった。空戦シーンの表現もシンプル且つダイレクトで、多くの領域を読者の想像に委ねていることが良かった。(逆に、飛行機の基本的な操縦機構と挙動を読み手が理解していることを前提にはされている)

 “スカイ・クロラ”及びそのシリーズは、小説から入った人と、劇場版から入った人とでは感想は異なるだろう。小説好きの人は前者で良いし、私のような読書嫌い?な人は後者で良いと思われる。私のような場合だと、小説のシリーズを読んでも脳裏に浮かぶ風景は劇場版の風景に裏打ちされてしまっていたりするが、それはそれ。小説から入った人が劇場版を観るときは、押井監督が原作“スカイ・クロラ”と“ナ・バ・テア”を読んで作った一つの解釈として捉えると良いだろう。

 美しい“空”が見れればそれで良いじゃないか。

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